アサヒビールへのサイバー攻撃から学ぶ:中小企業にも必須になる対策と BCP 構築の視点
- inokuchi
- 10月4日
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大手飲料メーカー・アサヒグループホールディングスが、2025年9月29日に発表したサイバー攻撃によるシステム障害。この被害は、国内の30工場以上に及び、受注・出荷・コールセンター業務が停止し、一部工場では出荷停止が継続しました。この事件は「大企業の問題」ではありません。むしろ、取引先やサプライチェーンを通じて中小企業にも被害が波及し得る重大な警鐘です。中小企業が備えるべきサイバー対策と BCP の考え方を、本記事で具体的に整理していきます。
アサヒグループは、自社の通知で「サイバー攻撃によるシステム障害」が発生し、国内グループ各社の受注・出荷業務およびコールセンターが停止したと公表しました。現時点では個人情報等の外部流出は確認されていないとされていますが、影響範囲・復旧時期は未定とされ、復旧に向けた調査が続いています。
一方、報道によれば、この攻撃はランサムウェアが原因と推定され、データ暗号化やシステム制御を奪う形で業務を停止に追い込んだ可能性があります。福島県のアサヒビール工場では、製造は継続しつつもインターネット関連システムを停止し、出荷が止まる状態となり、紙媒体で記録を代替する対応も見られました。
これらの被害から見えてくるのは、ITインフラに依存している企業にとって、サイバー攻撃が実質的に「事業停止リスク」として直結する、という現実です。
この事例から中小企業が直視すべき脅威には、以下のようなものがあります:
サプライチェーン経由攻撃 大企業だけを狙うのではなく、セキュリティ対策が手薄な中小企業を踏み台に侵入し、主要物のシステムに被害を及ぼす「サプライチェーン攻撃」が増加しています。
業務停止リスク 受注処理・出荷管理・与信チェック等の基幹業務が停止すれば、売上の喪失や取引先との契約リスクを引き起こしかねません。
信用失墜・法的リスク 個人情報や契約情報が漏洩した場合には、法令違反や取引先・顧客からの信頼喪失というダメージも同時に発生します。
復旧コスト・人的リソースの負荷 システム復旧、調査費用、専門家対応、対応遅延による損失など、金銭的・時間的コストも非常に大きくなります。
こうしたリスクに晒されないためには、平時からの備えと想定外に備える BCP(事業継続計画)の構築が必須です。
サイバーリスクを念頭においた BCP は、単なる災害対応型計画とは異なり、IT・システム停止に特化した準備を組み込む必要があります。これを「サイバー BCP」「IT-BCP」と呼ぶこともあります。
以下の視点が重要です
オフライン/物理バックアップの確保 オンライン環境と切り離された状態でのバックアップを持つことが重要です。ランサムウェアがクラウドやネットワークを侵害する可能性を考えると、オフライン媒体(USB、外付けHDDなど)や紙ベースのバックアップを併用することが推奨されます。
守るべき情報資産の優先順位付け すべてのデータを守ることはコスト的にも難しいため、企業価値に直結するもの(顧客データ、受注システム、設計データ等)を選定し、重点的に保護する体制を取ります。
初動対応手順の明文化と訓練 サイバー攻撃が発生した際の初動プロセス(誰が、何を、どの順番で対応するか)を明文化し、関係者全員に周知しておくことが不可欠です。訓練・模擬対応を定期実施することで、実効性を高めます。
ネットワークセグメンテーション・多層防御 社内ネットワークを領域分けし、万一侵入された場合でも被害範囲を限定できるように。さらに、ファイアウォール、IDS/IPS、アンチウイルス、アクセス制御など複数の防御を層として組み合わせることが望ましいです。
従業員教育とセキュリティ意識の向上 攻撃の入口になるのは多くの場合「人」です。フィッシングメールの見分け方、セキュリティポリシーの遵守、疑わしい挙動の通報ルールなど、定期教育と演習が不可欠です。
外部専門家との連携・支援制度の活用 サイバーインシデント対応やフォレンジック、法的助言などは、通常業務外の専門性を要します。信頼できるセキュリティ会社との契約や支援制度の活用も検討すべきです。中小企業向け「事業継続力強化支援」制度では、サイバー攻撃を含む対策支援を受けられる制度があります。
中小企業がまず取るべきアクション(3ステップ)
リスク診断/資産棚卸し どの情報・システムが事業停止につながるかを評価し、優先対応すべき範囲を絞ります。
BCP構築+サイバー対応計画の整備 具体的な初動手順、バックアップ体制、代替手段、通知ルートなどを含めた計画を策定します。
定期訓練と見直し 計画は作って終わりではなく、関係者を含めた模擬演習・定期見直しで実効性を維持します。
アサヒビールのような大企業でさえ、サイバー攻撃によって事業停止や広範な影響を受けうる現実が明らかになった今、もはやセキュリティは「オプション」ではなく「経営リスク管理」の必須事項です。中小企業だからこそ、早めに備えることで被害範囲を最小化し、信頼性を競争力にすることができます。
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